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名古屋高等裁判所 昭和38年(ラ)75号 決定 1963年10月07日

再抗告人 安田太郎吉

主文

原決定を取消し、本件を津地方裁判所に差戻す。

理由

再抗告人の再抗告の趣旨、理由は別紙記載のとおりであり、当裁判所はこれにつき次のとおり判断する。

民法第四二三条の代位は、訴訟、強制執行など一連の手続をなす行為のうちの個々の行為を対象としてこれを行い得ないが、債務者の権利を行使するにつき債務者を代位して訴訟を提起することはもちろん、債務者がその権利につきすでに債務名義を有するときは、これを代位して強制執行の申立をすることも許されると解すべきである。

「そして、本件再抗告人は、その債務者内外肥料株式会社に対して有する金銭債権保全のため、同会社が平野清二に対し和解調書上有する停止条件附の建物所有権移転登記請求権につきその条件が成就されたとして右債務名義につき執行文の付与を前記会社に代位して申請したものであり、かかる申立は、すでに開始された執行手続上の個々の行為の代位行使ではなく、一連の強制執行手続の代位申立であるというべく、かかる行為は債権者が代位してなしうるものと解すべきこと前述のとおりである」。

従つて、再抗告人の申請が、債権者代位のその他の要件(債務者たる前記会社の無資力、同会社は前記平野清二に対し叙上登記請求権を有するや否-右登記請求権成立の基礎をなす代物弁済予約完結権をも再抗告人は債務者たる右会社に代位して行使しているのであるが、その適否、すなわち、右会社が平野清二に対し有していた債権の実質価値が代物弁済の目的たる建物価格を下まわるものか否等)等執行文付与の要件が備わつていれば、再抗告人は債務者内外肥料株式会社に代位してその申請する執行文の付与を受けうべきものというべきである。

すなわち、本件執行文付与申請を以て債権者代位の対象とならずとして再抗告人の申立を違法とした原決定は失当であるから、民事訴訟法第四一四条、第四〇七条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 斎藤寿 裁判官 西川正世)

再抗告の趣旨

原決定を取消す。

再抗告の理由

原裁判所は執行力ある正本は強制執行の当事者たるべき適格を有するものでなくば付与されないという理由で、原抗告を棄却せられたるも、民法第四二三条は債務者が自己の有する権利を行使せざるため、債権者の債権を保全することができない場合は、債権者は債務者の権利を行うことができるというものであつて、従つてそれが裁判上の行為であろうとなかろうと、一身専属権以外のものであれば、なんら区別される筋合でないばかりか、その代位の結果は債務者に帰するものである。されば、執行力ある正本は強制執行の当事者たるべき適格を有する者に対してのみ付与されるべきものとしても、その債権者の債権者に民法第四二三条によつて代位を許す限りは、記録は当事者となつていなくとも当事者の適格を有するものと認めるのが本筋であると信ずる。

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